本記事では2021年にJames Straughan氏によって提案された解法APB(Athefre(‘s) Pair & Block)methodの概要解説をする.APBは「2x2x3(F2L)とEOまでの完成を効率化した解法」といえ,ZBLLの利用を前提とした解法である.Petrus methodに近いが,人間工学的に改善されている.また,Mehta methodのような高いアルゴリズム依存性を持ち,高TPS化も図られている.さらにオプションセレクト(解法の分岐)も提案されている.本記事ではこれらを主として概要を解説したい.
■ 前提
- 「R,R’,R2」のようなある方向の回転をまとめて<R>のように表記する.また,「<R>,<U>」等の2つ以上の回転をまとめて<RU>と表記する.
- この記事に限り二層回しの回転記号「Dw」「Rw」などをそれぞれ「d」「r」などと書く.また,「dBR」と書いて,「DBRコーナー+BRエッジ(F2LのBRスロットに相当)」を意味する(「d」が二層を意味するためである).
- この記事ではPetrus method,Mehta method,Roux methodを既知とするが概要を知っていれば十分である.ただし,EO(Edge Orientation)は重要であり,わからない人はZZ methodの解説,「エッジピースの特性」を読んでほしい(上記,Petrus methodの解説の中でも簡単には触れている).
■ 参考URL
[1] APB – Speedsolving.com Wiki
[2] APB
[1]は例のごとくWikiを参考にした.[2]は考案者であるJames Straughan氏による解説サイトである.アルゴリズムも[2]にまとめられている.各ステップの解説の中で随時リンクを貼る.なお,上記のほかにMehta method,LEORなどの別の解法のアルゴリズムを参照することがある.
■ 各ステップの流れと概要
各ステップの概要と流れを示す.
① 223
dlに2x2x3 Blockを構築する(下図参照).
そろえ方としては以下2つが主流だが,APBでは人間工学の観点から前者を推奨している.
- Roux methodのFirst block + DF,DBエッジ
DF,DBエッジは<RrUM>を使ってそろえる. - Petrus methodの2x2x2 → 2x2x3
② dBR Pair
dBRを正位置とするF2Lペアを作る.このとき,挿入はせずにUFr,uFR,UBr,uBRのいずれかでペアリングして保持する(下図参照).
ペアリングは<RU>だけで可能となる.アルゴリズムは[2]のPair Creation Algorithmsを参照.
③ EOPair
1つのアルゴリズムでdBR Pairの挿入とEOを同時に処理する.アルゴリズムは[2]のEOPair Algorithmsを参照.パターンはF2Lペアのエッジがグッドエッジかバッドエッジかによって大きく二分され,それぞれ31,32通りある.
EOの対象となるエッジの数は2x2x3 BlockとdBR Pairを除いた6つとなるが,バッドエッジは偶数個となるので内5つのエッジを確認すればよい.特にFRエッジは視認性がよく,②の段階から視認しておけば,残りはU/D面のエッジの色を確認するだけとなる.
④ LXS(Last Extended Slot)
F2Lの残りの3つピース(FR,DRエッジ + DFRコーナー)を1つのアルゴリズムでそろえる.アルゴリズムは[2]のLXS (dfR) Algorithmsを参照.パターンは全部で116となる.EOが完了しているため<RUD>が主となる.
⑤ LL(Last Layer)
Last Layerをそろえる.EOがそろっているため,OLL「No.21」-「No.27」(エッジの向きがすべてそろったパターン)のいずれか(+ Skip)となり,ZBLLが使える(もちろん,OLLやCOLLを用いてもよい).ZBLLのアルゴリズムは例えばSpeedCubeDBを参照されたい.
■ ほかの経路
※マニアックすぎるので読み飛ばしていいです.
ほかの経路を紹介する.通常の経路と共通するステップは解説を省略する.Mehta method,LEOR,Domino reductionなどとの併せ技がある.Domino reductionについてはWikiを参照されたい.初めて登場するアルゴリズム群に関しては簡単な解説をする.
● APB-CDRLL:CDRLLとL5EPを使う経路
① 223
② dBR pair
③ EOPair
④ dFR pair
FRスロットをそろえる.通常のF2Lの要領でよい.
⑤ CDRLL(CxLL (Corners of Last Layer) with DR edge free)
U層の4つのコーナーの向きと配置を一括して揃える.DRエッジに影響を及ぼす点でCOLLとは一部異なるアルゴリズムが採用される.42通りのパターンがある.アルゴリズムはMehta-OSのCDRLLを参照.
⑥ L5EP (Last 5 Edges Permutation)
Last Layer+DRの5のエッジの配置を交換し,揃えるステップ.16通りのパターンがあり,アルゴリズムは基本的に<MU>で構成される.アルゴリズムはMehta-OSのL5EPを参照.
● APB-DR:Domino reductionとPLLを使う経路
① 223
② EOBelt
FR,FBエッジを揃えつつ,他の全てのエッジの向きを揃える.アルゴリズムはMehta-OSのEOLEを参考にされたい(EOLEはFRエッジとEOを同時にそろえるアルゴリズム).
③ CO
223以外の6つのコーナーの向きをそろえる.アルゴリズムはMehta-OSの6COを参考にされたい.
④ Right-block
223の右側のBlockをそろえる.アルゴリズムはMehta-OSのAPDRを参考にされたい.<RU>だけで構成される.
⑤ PLL
Last Layerの配置をそろえる.CFOPのそれと同じ.
● APB-LEORCP:APBとLEORの組み合わせの経路
① 1x2x3 Block
Roux methodのFirst blockに相当するBlockを構築する.
② EOStripe
DF,DBエッジをそろえつつ,他の全てのエッジの向きを揃える.アルゴリズムはEO algsheetを参照されたい.
③ CPPair
すべてのコーナーの配置を揃えながらBRスロットをそろえる.アルゴリズムは見つけられなかったが,初心者向けに10個のアルゴリズムでペアとCPを別々にそろえるものがあるらしい.一括して揃える場合,パターンの数は210通りとなる.
④ LXS
⑤ 2GLL
ZBLLの内,コーナーの配置がそろっているものに相当.CPPairでコーナーの配置を揃えているため,これが確定する.パターンが84通りに限定され,<RU>のみでそろえられる.
● APB-CP:CPを用いて2GLLを利用する経路
① 223
② dBR Pair
③ EOCPair
ペアを挿入しながらコーナーを配置をそろえ,なおかつEOもそろえる.アルゴリズムは見つけられなかったが,パターンは630通りとなる.
④ LXS
⑤ 2GLL
■ 特徴
APB methodの特徴を以下に示す.
- 全体の70~75%がアルゴリズム依存であり,人間工学的に回しやすいものが多い.高いTPS(Turn Per Seconds:単位時間当たりの回転数)が保証される.
- 持ち替えずにソルブできる.
- ソルブまでの総回転数が少ない.推定手数は48手程度で,Roux methodに匹敵.
- EO単体を独立したステップとせず,Pairの挿入と一括することで手数の低減と視認性の改善を図っている.考案者はこれがPetrus methodからの改善点としている.
- ZBLLを前提としており,全体的にも習得するアルゴリズムの数が多い.
■ 著者の所感
これまでありそうでなかった完全にZBLLを活かすための解法であり,ネックであったEOの手数,視認性を改善している.正直これがどこまで有効なのかは著者の実力では判断しかねる.しかし,ZBLLの採用者は増加傾向にあって,こうした解法の登場は自然の成り行きだと思う.APBがそうなるかはわからないが,数年後には「ZBLL前提」の解法が常識になっているかもしれない.
一方,ZBLL自体がタイムに与える影響がそこまで大きくないことや,223を読む負荷の高さを考えると解法の思想自体に無理があるようにも思える.やはり「いますぐに乗り換えるべき解法」とは言い難い.